経営資源(ヒト・モノ・カネ)を情報で効率化する

中小企業は潤沢でない経営資源(ヒト・モノ・カネ)をいかに有効に活用するかを常に迫られる組織といえます。有効活用には経営資源の利用そのものが効率的であること、また資源配分に関する意思決定を正しく、適時に行えることが必須です。
DXは“デジタル技術を活用し、あらたな事業価値を企業にもたらす”こととされますが、既存の経営資源を有効活用し、より高い事業価値をもたらすことも含まれると考えます。

事業価値向上のため中小企業が取り組むべきこととは

事業価値向上の具体例として、業務効率化による生産性向上、顧客満足度の維持向上、付加価値の向上、新製品・サービスの提供、ビジネスモデルの変革によるものなどが挙げられます。一般に、前者より後者に進むほど内部から外部への働きかけが求められたり、既存の業務やサービス提供の枠組みを変える必要性が高まるなど、組織が取組む際の難易度が上がるといわれています。

優先して何に取り組むべきか

ここで中小企業がまず取り組むべきものは、業務効率化と顧客満足度の維持向上の仕組みづくりがよいと考えます。社内体制整備が不十分であることが多い中小企業であれば、この2点を押さえるだけでも、売上への寄与とコスト削減効果が期待できるはずです。

さらに取り組むべきは、経営資源の効率的利用のための経営情報の適時入手です。業務効率化を進めることで、一定程度、社内業務や各種施策に割り当てた経営資源の効率活用、削減が可能ですが、それにも限度はあります。もっとも効果的な経営資源の利用は、収益に対する貢献が少ない製品、サービス、施策等に割り当てている経営資源を見いだし、それをその他の優良な製品、サービス、施策等に再割当てすることにあります。それには経営の舵取りを行うための経営情報が必要なのです。

どんな企業にも経理情報はあるが、それを経営情報と呼べるか

どのような企業でも持っている経営情報は経理情報です。
会社全体や部門毎の業績が一目で分かる基礎的かつ共通的な経営情報ですが、その活用の度合いにはかなりの幅があります。中小企業においてDXが進んでいるかどうかは、社内に月次の経理情報を分析し、取るべきアクションをしっかり検討する情報整備も含めた体制があるか、その維持改善を行っているかで判断できます。
経営判断には、経理情報に比べ、より細部の情報が必要であったり、より鮮度の高い情報が必要なことが多く、それを補うのがDXの基礎となる社内のデータ収集、分析体制だからです。

経理情報を経営判断に役立てるには工夫が必要

多くの中小企業では、翌月の10日までに経理の月次決算作業が終わることは少なく、翌月半ばまで待たざるを得ないことも多いもの。経営情報を経理からの報告のみに頼っている場合は、今日の営業成績が報告されるまで長ければ1ヶ月半も待たなければなりません。経理の月次処理は1ヶ月間に発生した収益・費用をすべて計上することが原則であり、営業状況を知るためにさほど重要でないその他の固定的費用もすべて集計できるまで作業が終了できないためやむを得ないともいえます。しかし、これでは経営判断→結果確認→指示を短期間で回すことができません。

また経理情報を見たときに思い浮かぶ”なぜ”を探るには、細部に入り込むことも必要になります。なぜなら、経理情報は事業活動の単位として粒度を下げても部門ごとの区分までであったり、取引情報についても経理処理の簡便化のためにすでに集約後のデータを取り扱っていたりすることが多く、現場での取引単位での可視化ができないからです。

なぜ売上が減少したのか、費用が増えたのか、原価が高くなったかは、本質的にはより上流である発生源の情報を確認しなければわかりません。それは販売現場の実績情報であったり、商品発注、納入情報、製品・サービスの製造情報であるときもあります。

眠っている社内データ資産活用こそDXの狙い

中小企業では、こういった上流情報は経理の月次処理時のみに、ごく一部が経理用として加工される他、限られた担当者が業務上参照するのみで、経営者が見ることもなく眠っていることが多いのです。これらの情報こそ、経理の月次処理サイクルでバッチ処理されて報告される情報ではなく、DXの取組みの中で光を当てるべきリアルな情報です。

同時に、業務効率化や顧客満足向上においても、具体的なアクションのヒントが見えてこなければ、有効な手立てを立てにくくなります。顧客に対して、なにが、いつ、どこで、どのように売れているか、製造であれば、なにを、どれだけ使って、どれだけできたか。これらを知って初めて、現場視点でのさまざまなアプローチが可能になります。

繰り返しになりますが、DXに取り組むにあたって、経理情報を現場の感覚を持ってしっかり分析できているか、さらには経理情報が出揃ってなくとも(月次決算が終わっていなくても)、現場判断のための必要な情報を取得、分析、活用が可能か、まずは社内の確認からはじめましょう。

データ活用には社内体制の整備も忘れずに

多くの中小企業において、経理情報の分析基盤だけでなく、分析をした後、指示を行い、その結果を確認するフォロー体制をつくり、回していくことが欠けています。

経営会議など、分析報告の場を設けましょう。たとえ取締役が社長一人のみの会社であったとしても、全社横断的な取組みとして、営業責任者、製造責任者、経理責任者等を交えて、情報の鮮度が高いうちに、必要なタイミングで行うことをおすすめします。

例を挙げれば、販売管理や生産管理システム等の上流のデータを定期的に入手、担当者が分析を行い、会議で報告、経営者がそれをレビューし、具体的な指示、アクションに常日頃からつながっていることが重要です。そのような会議の一つとして、月次経理報告も含まれることになります。

社内に分析基盤が無い場合は、まずはITベンダーの支援を受けるなどして、データのダウンロードを行いましょう。経営の視点を持ったITに強い専門家を活用し、見るべき視点のとりまとめやレポート作成の支援を受けるのも手です。また報告されたレポートに第三者的な視点からアドバイスを受けることも有用でしょう。

結局、DXの狙いの一つでもある革新的なビジネスモデルは、小さな改善を突き詰めて、継続して模索するところから生まれることが多く、無から飛躍的発想が生まれることは少ないともいわれています。

一度の試みで経営資源を最大限に活用できる施策や業務を探し当てることは困難です。環境の変化による打ち手の変化も求められる中、小刻みにトライアンドエラーを繰り返して、経営資源の割当の方針(経営方針)を見つけて行くことが必要で、試行錯誤の末に見いだす画期的な施策もあるでしょう。

(※本記事は経営ノウハウの森に寄稿したものを要約、再構成したものです)